副題 : 金融庁レポートから考える「信用される会社」と「信用を失う会社」の違い

1.金融庁はなぜ警鐘を鳴らしたのか

「今期は赤字になりそうです。銀行融資への影響は大きいでしょうか?」
経営者の方から、このような相談を受けることがあります。
確かに銀行は決算書を重視します。そのため、「赤字になったら融資を受けられなくなるのではないか」と不安に感じる経営者も少なくありません。

私は以前、商社で取引先企業の与信管理業務に携わっていました。与信管理では、決算書の利益額だけを見るわけではありません。売上や利益の推移、資金繰りの状況、貸借対照表の変化などを確認しながら、その企業の信用力を分析します。その経験から感じるのは、企業の信用を損なう最大の要因は赤字そのものではなく、財務情報に対する信頼を失うことだという点です。

ちょうど図らずも昨日も、電子部品大手ニデックに関し、子会社における不適切な会計処理を巡って、証券取引等監視委員会が同社に対し、金融商品取引法に基づく資料提出命令を出していたことが報じられました。行政処分を視野に同法違反の有無を精査し、悪質だと判断すれば刑事告発も検討する。

また、2025年6月に金融庁が公表した「金融機関における粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたモニタリングレポート」でも、粉飾事案を踏まえ、金融機関と企業双方に対して健全な情報開示と適切なモニタリングの重要性が示されています。

これらのニュースやレポートから読み取れるのは、単に利益が出ているかどうかではなく、「企業が開示する財務情報をどこまで信用できるか」が、ますます重要になっているということです。

今回は、「なぜ銀行は赤字より粉飾決算を警戒するのか」「金融庁は何を問題視しているのか」「経営者が本当に意識すべきことは何か」について解説します。

2.赤字だから融資を受けられないとは限らない

まず知っておきたいのは、必ずしも「赤字=融資不可」ではないということです。

例えば、「創業間もない会社」や「設備投資を行った会社」、「新規事業へ先行投資している会社」、「一時的な業績悪化に直面している会社」などは赤字になることがあります。

金融機関は決算書だけでなく、赤字の原因、今後の改善見込み、資金繰りの状況、経営者の説明内容などを総合的に確認します。

もちろん赤字は望ましい状態ではありません。しかし赤字そのものは経営上の課題であり、必ずしも信用問題ではありません。

3.粉飾決算は「業績」の問題ではなく「信用」の問題

一方で粉飾決算は性質が全く異なります。例えば、売上の架空計上、在庫の水増し、経費計上の先送り、債務の隠蔽などによって実態以上の利益を作り出す行為です。

金融機関は決算書を重要な判断材料として融資を行います。そのため、決算書そのものの信頼性が失われることは、金融機関との関係に大きな影響を及ぼします。

赤字は改善できます。しかし信用を失うと、その回復には長い時間を要します。だからこそ粉飾決算は極めて大きな問題となるのです。

4.金融庁が警鐘を鳴らした「粉飾リスク」

2025年6月、金融庁は粉飾事案を踏まえたモニタリングレポートを公表しました。このレポートで印象的だったのは、「金融機関の審査能力を批判する」という内容ではなく、「粉飾手口が巧妙化する中で、より高度なモニタリング体制が必要である」という問題意識です。

金融機関は、試算表・資金繰り表・面談内容・現場視察・各種資料などを通じて企業実態の把握に努めています。粉飾の手口は昔とさほど変わらないものの、近年はその手法が巧妙・複雑化しており、金融庁は金融機関に対してさらなる態勢強化を求めています。これは裏を返せば、企業側にも正確な情報開示が求められているということです。

健全な融資取引は、金融機関だけでは成立しません。企業と金融機関の双方が信頼関係を築くことによって成り立っています。

5.粉飾企業には共通する兆候がある

金融庁レポートでも、粉飾事案には一定の共通点が見られることが紹介されています。

例えば、

  • 売掛金だけが急増している
  • 在庫が不自然に増加している
  • 利益は増えているのに現金が増えていない
  • 提出資料の整合性が取れていない
  • 試算表提出が遅れる

といったケースです。

もちろん、これらが直ちに粉飾を意味するわけではありません。しかし、こうした変化には必ず何らかの背景があります。経営者自身がその理由を説明できる状態にしておくことが重要です。

元与信審査の立場から言わせてもらえば、数字を一か所でもいじれば、どこかで辻褄が合わなくなる。その痕跡は必ず残ります。

銀行も通常プロセスに沿って審査が行われていれば、その痕跡は少なからず目に留まるはずです。経営者のほうも「バレないだろう」という淡い期待や発想は捨てたほうがよいでしょう。

見逃してもらえることがあるとすれば、金融庁レポートの中で繰り返し指摘されている、いわゆる「ぶら下がり融資」によるチェック態勢の形骸化ぐらいでしょうか。

6.粉飾は一度始めると止められなくなる

粉飾が危険なのは、「一度だけ」で終わらないことです。

例えば今期の利益を500万円増やしたとします。すると翌期は、その500万円を前提にさらに利益を作らなければなりません。
その結果、売上の架空計上や在庫の水増し、債務の隠蔽などへ発展しやすくなります。

金融庁レポートでも、小規模な利益操作が徐々に拡大し、複雑化する傾向が指摘されています。

経営者としては、「今回だけ」という発想こそが最も危険なのかもしれません。

7.不正会計は大企業でも他人事ではない

最近では上場企業においても不正会計に関する報道が相次いでいます。

2025年には、電子部品大手ニデックの子会社における不適切な会計処理が報じられ、そして2026年6月12日、証券取引等監視委員会が金融商品取引法に基づき資料提出命令を出したことが報道されました。

現時点で法令違反の有無や最終的な評価は確定していませんが、この事案が示しているのは、不正な会計処理に対する社会や監督当局の目線が以前にも増して厳しくなっているということです。

会計上の問題は、必ずしも最初から悪意を持って始まるとは限りません。

業績目標へのプレッシャーや、「今期だけ何とか乗り切りたい」という判断の積み重ねが、後になって大きな問題へ発展するケースもあります。

だからこそ、企業規模を問わず、日頃から正確な会計処理と適切な内部管理体制を維持することが重要です。

8.本当に怖いのは融資実行後に発覚すること

経営者の中には、「融資審査で見つからなければ大丈夫」と考える方もいるかもしれません。
しかし本当に怖いのはその後です。

例えば、次のような場面で過去の数字をあらためて確認されることがあります。

  • 追加融資
  • 借換え
  • リスケジュール
  • 税務調査
  • M&A
  • 事業承継

その際に問題が発覚すると、金融機関との信頼関係だけでなく、取引先や関係者からの信用にも影響を及ぼしかねません。

9.銀行が評価するのは「正確な情報開示」

金融機関が求めているのは完璧な決算書ではありません。

むしろ、①現状を正しく把握して、②課題を認識して、③その改善策を説明できることの方が重要です。

業績が厳しい状況であっても、正確な情報を共有しながら改善に取り組む企業は少なくありません。金融機関との対話においても、数字を良く見せることより、実態を正しく伝えることの方が結果的に信頼につながります。

10.まとめ|銀行融資は「信用を積み上げる取引」

赤字業績はたしかに経営課題です。しかし粉飾決算は信用問題です。

金融庁が今回公表したレポートからも分かるように、金融機関は企業実態の把握に努める一方で、企業側にも正確な情報開示が求められています。

銀行融資は単なる資金調達ではありません。金融機関との信頼関係を積み上げていく長期的な取引です。

だからこそ、良い数字を作ることよりも、正しい数字を示すことが重要です。
経営が苦しい時ほど数字を取り繕いたくなるものですが、その誘惑に負けず、現状を正しく把握し改善策を考えることこそが、会社を守る最善の方法ではないでしょうか。

銀行融資や決算書の見せ方でお悩みの経営者の方へ

当事務所では、税務申告だけでなく、金融機関との対話を意識した決算書づくりや資金繰り管理のサポートも行っています。

「赤字だから融資は難しいのではないか」

「銀行にどのように説明すればよいかわからない」

「決算書をどのように見られているのか知りたい」

このようなお悩みをお持ちの経営者の方も少なくありません。

私は以前、商社で与信管理業務に携わり、多くの企業の財務分析を行ってきました。

その経験から感じるのは、資金調達において最も重要なのは、数字を良く見せることではなく、会社の状況を正しく把握し、金融機関へ適切に説明できることです。

当事務所では、決算申告だけでなく、

  • 金融機関へ提出する資料の整理
  • 資金繰りの見える化
  • 金融機関との面談に向けた事前準備
  • 創業融資や運転資金の調達支援

などもサポートしております。

融資申請前や銀行との面談前の段階でも構いません。資金調達や決算書に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。


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