創業融資には、日本政策金融公庫の融資と自治体の制度融資があります。本記事では、多くの創業者が最初に利用を検討する日本政策金融公庫の創業融資について、自己資金の考え方を実務の視点から解説します。
制度上の自己資金要件と実務は違う
「創業融資を受けるには、自己資金はどのくらい必要ですか?」
創業を検討されている方から、最も多くいただくご質問の一つです。
以前の日本政策金融公庫には「新創業融資制度」があり、創業資金総額の10%以上の自己資金を用意することが要件とされていました。しかし、現在は制度が見直され、創業資金総額の10%以上の自己資金を必須とする制度上の要件は廃止されています。
そのため、制度上は自己資金が少ない場合でも創業融資を受けられる可能性があります。
しかし、ここで注意していただきたいのは、「制度上の要件」と「実際の融資審査」は必ずしも同じではないということです。
私自身、先日さいたま市の創業支援担当者からお話を伺う機会がありました。その際に印象的だったのが、次のようなお話です。
「日本政策金融公庫の創業融資は、信用保証協会の保証付き融資とは異なり、経営者本人や事業の将来性を見て判断する融資です。だからこそ、事業に対する覚悟の証として、ご自身の自己資金はぜひ入れてほしいと考えています。」
この言葉は、創業融資の実務を非常によく表していると感じました。
自己資金は、単に「返済能力」を示すためだけのものではありません。金融機関は、自己資金を通じて「この事業のためにどれだけ計画的に準備を進めてきたのか」「創業者自身がどれだけ本気で事業に取り組もうとしているのか」を見ています。
つまり、自己資金は『事業に対する覚悟』や『計画性』を示す重要な判断材料なのです。
もちろん、自己資金が少なくても融資を受けられるケースはあります。その場合には、業界での経験や専門知識、すでに受注の見込みがあること、綿密な事業計画を作成していることなど、自己資金以外の強みをしっかり説明することが重要になります。
また、「自己資金」とは、単に会社設立時の資本金の額を指すものではありません。資本金の原資が知人などからの借入金であるケースも考えられるため、審査では創業者本人が計画的に蓄えてきた預貯金など、自由に使える自己資金がどの程度あるかが重視されます。
そのため、日本政策金融公庫では、創業者本人名義の預金通帳などの提示を求められ、自己資金の形成過程や資金の出所について確認されることがあります。
「どのように自己資金を準備してきたのか」「なぜその資金を事業に投じようと考えたのか」まで説明できることが、融資担当者からの信頼につながります。
創業融資は、単に資金を借りるための手続きではありません。事業への想いや実現可能性を金融機関に伝える大切な機会でもあります。
制度は変わっても、自己資金の重要性は変わっていない
繰り返しとないますが、日本政策金融公庫では、2024年3月末をもって「新創業融資制度」の取扱いが終了し、創業資金総額の10%以上という自己資金要件も廃止されました。現在は、後継制度である**「新規開業・スタートアップ支援資金」**が創業融資制度の中心となっています。
制度改正により、自己資金要件は撤廃され、融資限度額も従来の3,000万円から7,200万円(うち運転資金は4,800万円)へと大幅に拡充されました。
一見すると、「自己資金がなくても創業融資を受けやすくなった」と感じる方もいるかもしれません。しかし、実際の創業融資の状況を見ると、興味深いデータがあります。
日本政策金融公庫総合研究所が公表した**『2025年新規開業実態調査』**によると、日本政策金融公庫国民生活事業が2024年4月から9月までに融資した開業後1年以内の企業8,517社を対象とした調査では、**平均調達額に占める自己資金の割合は24.5%**でした。
さらに注目すべきは、この割合が、自己資金要件が存在していた2020年から2024年までの調査平均(23.1%)とほぼ変わっていないことです。
つまり、制度上は自己資金要件が撤廃された現在でも、実際に創業融資を受けている事業者は、平均すると創業資金のおよそ4分の1を自己資金として準備しているということになります。
こうした実績から、「自己資金は創業資金総額の2~3割程度を目安に準備するとよい」などとよく言われることがあります。もちろん、必要な自己資金額は、事業内容や創業者の経験、事業計画などによって異なりますが、この目安は長年の融資実績から導かれた一つの考え方といえるでしょう。
私は、この調査結果から一つのことが読み取れると考えています。
制度上の自己資金要件はなくなりましたが、それによって創業融資の本質が変わったわけではありません。金融機関は現在でも、自己資金を「返済能力」だけでなく、「事業に対する覚悟」や「計画性」を示す重要な指標として見ています。制度改正だけに目を向けるのではなく、実務で何が評価されているのかを理解したうえで準備を進めることが、創業融資成功への近道といえるでしょう。
また、日本政策金融公庫の融資課長からお話を伺った際には、こんな興味深いお話もありました。
「融資稟議を作成する中で、経営者ご本人との面談だけでは事業計画や資金計画について十分に伝わらないと判断した場合には、顧問税理士など事業や財務状況をよく理解している専門家の意見を確認し、そのコメントを稟議資料に記載することがあります。」
とのことでした。
もちろん、税理士が関与しているだけで融資が決まるわけではありません。しかし、金融機関は、日頃から経営状況を把握している税理士の客観的な意見を、一つの判断材料として活用することがあるということです。
私自身、このお話を伺い、創業融資における税理士の役割は、単に事業計画書を作成することではなく、金融機関と創業者との橋渡し役を担うことにもあるのだと改めて感じました。
だからこそ、私は創業融資のご支援では、事業計画書の作成だけでなく、自己資金の考え方や融資担当者への説明方法まで含めてサポートしています。制度を理解し、金融機関が重視するポイントを押さえて準備を進めることが、創業融資を成功に導く近道になると考えています。
創業融資は、融資を受けることがゴールではありません。創業後も安心して事業を続けられる資金計画をつくることが、本当のスタートです。
最後に
当事務所では、融資の可否だけではなく、その後の資金繰りや経営まで見据えた創業支援を行っています。
創業融資や資金計画について不安や疑問がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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