「ようやく利益が出るようになった。」
経営者にとって黒字化は大きな節目です。
しかし、私はこれまで多くの会社の決算書を見てきましたが、黒字化した会社が必ずしも成長するとは限りません。むしろ、黒字転換をきっかけに成長が鈍化してしまう会社も少なくないのです。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
今回は、利益が出始めた会社が陥りやすい落とし穴と、金利上昇局面における経営の考え方についてお話しします。
1.黒字になると経営者は「税金」が気になり始める
赤字の頃は、とにかく売上を伸ばすこと、資金繰りを回すことが最優先です。
ところが利益が出始めると、経営者の関心は「税金」へと向かいます。
「できるだけ税金を払いたくない」「今のうちに節税したい」「利益を圧縮したい」
こう考えるのは自然な発想です。
実際、税金は現金支出を伴うため、決して軽視できるものではありません。
しかし、利益が出た会社が「節税」を最優先に考え始めると、別の問題が生じることがあります。
2.節税によって失われる成長機会
節税そのものが悪いわけではありません。問題は、節税自体を目的化してしまうことです。
本来、利益は会社が将来の成長のために獲得した資源とも言えます。例えば、優秀な人材の採用や営業体制の強化、設備投資や新規事業への投資によって、さらに大きな利益を生み出す可能性があります。
しかし、「税金を払いたくない」という意識だけが強くなると、「将来の投資機会を逸しても、とにかく利益を減らしたい」という発想に陥ることがあります。
結果として、利益は出ているのに成長投資が進まない。現金は残っているように見えるが、事業の成長スピードは鈍化している。そんな状態が生まれるのです。

3.現金を持つだけでは会社は成長しない
会社の価値は、当然ですが単に現金残高で決まるわけではありません。重要なのは、投下した資金がどれだけ高い収益を生み出しているかです。
100万円の利益を生む投資機会があるにもかかわらず、「借入をしたくない」「税金を払いたくない」という理由で投資を見送るのであれば、会社は成長機会を失うことになります。
もちろん無計画に投資をすることは危険です。しかし、適切な投資機会があるにもかかわらず資金を寝かせてしまうことも、経営上の機会損失といえます。
4.金利上昇局面だからといって、本当に借入を避けるべきなのか?
2024年以降、日本でも長らく続いた超低金利時代が転換点を迎えました。
いまや足元の政策金利は1995年以来、31年ぶりの高水準となります。
そして、この金利上昇局面を懸念する経営者の方々も増えてきているのではないでしょうか。
しかし、「金利が上がるから借入をしない」という考え方がほんとうに正しいとは限りません。
重要なのは、「借入金利と投資収益率の比較」です。
例えば、年2%で資金調達し、その資金から10%の収益を生み出せるのであれば、借入は十分合理的な選択肢になり得ます。
一方で、借入した資金を明確な投資目的もなく、節税という旗印のもと無計画に使ってしまえば、当然ながら企業価値は向上しません。
つまり、借入そのものが良い・悪いという問題ではなく、調達した資金をどのように運用するかが本質的に重要になってくるのです。
5.借入は「節税効果」もある
実は借入金にはもう一つの側面があります。
支払利息は税務上、損金となるため、税負担を軽減する効果があります。
仮に法人実効税率を30%とすると、100万円の支払利息が発生した場合、約30万円分の税負担軽減効果が期待できます。
もちろん、「節税のために借金をする」という考え方は本末転倒です。しかし、成長投資のための借入であれば、資金調達効果に加え、税務上のメリットも享受できることになります。
6.ファイナンス理論ではどう考えるのか

ファイナンスの世界では、モディリアーニ=ミラー(MM)理論という有名な考え方があります。
税金が存在する現実市場においては、借入による利息の節税効果(タックスシールド)によって、企業価値が向上すると考えられています。
ファイナンス理論上、借入による節税メリットによって企業価値は「借入額 × 税率」分だけ増加するとして説明されることもあります。
もちろん現実の経営では、倒産リスクや金利変動リスクなども考慮する必要がありますので、単純に借入を増やせば良いという話ではありません。
しかし少なくとも、「無借金経営こそ絶対に正しい」という考え方もまた、資金調達コストを上回る期待収益が目の前にぶら下がっていながら、その投資機会をみすみす見送ってしまうのだとすれば、必ずしも合理的とは言えません。
7.まとめ
利益が出始めた会社が考えるべきことは、税金を減らすことだけではありません。重要なのは、その利益をどのように再投資し、会社の成長につなげるかです。
金利上昇局面だからこそ、借入を避けるのではなく、
- どのような投資機会があるのか
- その投資はどれだけの収益を生むのか
- 資金調達コストを上回るリターンが期待できるのか
という視点で考えることが重要になります。
節税は経営の目的ではなく手段です。会社の将来価値を高めるために、利益と資金調達をどう活用するか。
その視点が、これからの金利上昇局面ではますます重要になるのではないでしょうか。
当事務所では、税務申告だけでなく、資金調達や投資判断を含めた経営上の意思決定についてもご相談を承っています。
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