副題:「利益が出ていても融資に慎重になる理由|銀行が見ている資金循環とは」
「黒字なのに融資が厳しかった」
「利益は出ているのに、銀行評価が思ったほど伸びない」
こうしたケースは、中小企業実務では珍しくありません。
会社経営では、「利益が出ているか」が重要であることは間違いありません。
しかし、銀行実務では、単純にPL上の利益だけで融資判断が行われているわけではありません。
金融機関がもう一つ見ているのが、
「将来にわたって返済可能な資金循環(キャッシュフロー)が維持されるか」
という点です。
この記事では、なぜ銀行が「利益」より「資金繰り」を重視するのかについて、与信審査・事業審査実務の視点も踏まえて解説します。

① 銀行融資は「返済」が前提である
当然ですが、銀行融資は返済されることを前提に行われます。
銀行の審査にあたって利益は極めて重要です。
なぜなら、利益は「将来のキャッシュ創出力の源泉」であり、借入返済原資の基盤になるためです。
一方で、銀行実務では「利益が出ている」という事実だけで融資判断が行われているわけではありません。銀行は、利益がしっかりとキャッシュ創出につながっているか。その資金循環までも見ています。
言い換えると、
・その利益が安定的に資金回収につながっているか
・資金繰りに無理が生じていないか
・返済可能なキャッシュを安定的に創出できる資金循環となっているか
といった点も含めて検討されているわけです。
つまり銀行は、「利益額」だけではなく、「その利益と連動する資金循環まで」を見ているわけです。
例えば、
・キャッシュ創出に比べ支出が重く、資金が残らない
・売掛金回収が遅れている
・短期返済で調達した資金で固定資産をしている(長期回収と短期返済のミスマッチ)
・不良債権や架空債権の計上
・経費処理漏れ
・算定誤りによる過大在庫や不適切な架空在庫
・未払金、買掛金の計上漏れや仕入計上の先送り
・会社から社長、親族への貸付金
このような場合におけるPLはたとえ黒字であっても、資金循環が悪化する可能性や意図的な場合には粉飾決算となって、返済リスクが高まります。

② なぜ利益だけでは判断できないのか
では、あらためて銀行はなぜ利益だけで判断していないのでしょうか。
理由は2つあります。
1つ目は、銀行は中小企業の決算書を額面どおりには信用していないからです。
次に2つ目の理由は、会計上の本質的な構造にあります。
銀行実務では、中小企業の決算書を額面どおりに評価しているわけではありません。
もちろん、税務申告は適正な会計処理に基づいて行われることが前提です。
しかし実務上は、
・経理体制の違い
・会計処理精度のばらつき
・利益や税負担を意識した処理
・税理士による確認範囲の差異
などによって、決算書数値と実態にズレが生じるケースも少なくありません。
特に中小企業の現場では、外部開示を前提とした企業会計よりも、税務申告実務を優先した会計処理が採用されるケースも少なくありません。
会計監査と異なって、税務申告を業務目的とする税理士も、税務申告に支障がない範囲であれば、顧客が強く要望する会計方針を尊重するケースもあります。
そのため銀行は、決算書数値だけではなく、
・売掛金の回収状況
・在庫推移
・資金繰り実態
・借入依存状況
なども確認しながら、返済能力を分析しています。そうせざるを得ないのです。
次に挙げられる2つ目の理由。
それは、会計上の損益と現金収支において期間的なズレが生じるという本質的な構造です。
一定期間に区切って経営成績を測定するという、「会計上の仕組みによって算定された利益」と、「実際の現金収支」とは当然に一致しません。
ここでは単純な例として、現金で仕入れた商品を充分な利益幅を載せて、クレジット販売をしたとしましょう。
クレジットカードの代金回収期間は一般には約1か月程度と言われています。
この場合、会計上は売上と利益が計上される一方で、実際の資金回収まではタイムラグが発生します。
つまり、
利益が出ていても、30日後の代金回収までの期間は現金支出が先行して、
キャシュフローはマイナスの状態が続きます。
そのため、銀行実務では、
単にPL上の利益額だけではなく、
「利益がどのように資金循環へつながっているか」
という視点で会社分析が行われています。
特に中小企業では、
・売掛金増加
・在庫滞留
・短期借入依存
・設備投資負担
などによって、利益と資金繰りが乖離するケースも少なくありません。
銀行は、こうした「利益とキャッシュのズレ」が返済能力上、
「資金循環として無理のない水準に収まっているか」
「将来的な返済リスクにつながりそうか」
を審査において見極めているのです。
③ 銀行が見ているのは「数字管理能力」
金融機関は、単に決算書の数字だけを見ているわけではありません。
実際には、「経営者がどこまで数字を把握しているか」も重要視されています。
例えば、
・月次試算表を確認しているか
・資金繰りを説明できるか
・利益率変動要因を理解しているか
・資金不足要因を把握しているか
などは、金融機関との対話でも重要になります。

④ 月次管理が銀行評価につながる理由
金融機関は、「問題が発生した会社」より、「問題を早期把握できる会社」を評価します。
そのため、
・月次試算表
・資金繰り表
・予実管理
などを継続的に行っている会社は、金融機関との対話もしやすくなります。
逆に、
・決算時しか数字を見ない
・資金繰りを整理していない
・利益要因を説明できない
場合、金融機関側は不安を感じやすくなります。
つまり月次管理は、単なる経理業務ではなく、「金融機関との信頼形成」にもつながっています。
⑤ まとめ
銀行融資では、利益は極めて重要です。
しかし銀行実務では、その利益が、
・実際にキャッシュ創出につながっているか
・返済原資として安定しているか
・会計数値として信頼できるか
という点まで含めて分析されています。
そのため、
・利益だけを取り繕う
・資金循環と乖離した会計処理を行う
・実態と大きく異なる決算を作成する
といった対応は、長期的には金融機関との信頼関係を損なう要因にもなり得ます。
融資を受けやすい会社とは、単に利益が出ている会社ではなく、
「利益・資金繰り・会計数値に整合性がある会社」です。
そして、その土台となるのは、日々の適切な会計処理と、月次で現状を把握できる管理体制にあります。
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