「取引先とのゴルフ代は経費になりますか?」
税務相談の中でも比較的よく聞かれるテーマの一つです。
実際、ゴルフは営業活動や取引先との関係構築の一環として行われるケースもあり、「事業に関係している」と感じる方も少なくありません。
一方で、税務上は私的利用との区別が難しく、税務調査でも問題になりやすい項目です。
特に注意したいのは、個人事業主と法人では、税務上の考え方や調査上の視点が異なるという点です。
この記事では、ゴルフ代に関する国税庁不服審判所の裁決事例を踏まえながら、「なぜ否認されることがあるのか」「個人と法人で何が違うのか」を解説します。
① ゴルフ代はなぜ税務上問題になりやすいのか
ゴルフ代が問題になりやすい理由の一つは、「事業」と「私的支出」の境界が曖昧になりやすい点にあります。
例えば、
・取引先との接待ゴルフ
・業界関係者との親睦
・営業活動の一環
として行われるケースもあります。
しかし一方で、
・個人的な交友
・趣味や娯楽
・プライベート利用
との区別が難しい場面も少なくありません。
そのため税務調査では、
「本当に事業遂行上必要だったのか」
「私的利用が含まれていないか」
という観点から確認されやすい項目です。

② 個人事業主では「必要経費」に該当するかが問題になる
個人事業主の場合、ゴルフ代は「必要経費」に該当するかどうかが問題になります。
所得税では、事業所得を計算する際、事業遂行上必要な支出のみが必要経費として認められます。
ここで重要なのは、
「事業に全く無関係ではない」ことと、「必要経費として認められる」ことは同じではないという点です。
実際には、
・家事費
・家事関連費
との区別が問題になるケースも多く、私的要素が強いと判断されると、必要経費として認められない可能性があります。
つまり、単に「取引先と行った」というだけでは足りず、
・事業との関連性
・必要性
・実態
などを踏まえて判断されることになります。
③ 判例ではどのように判断されたのか
令和2年の国税庁不服審判所の裁決事例では、税理士業を営む個人事業主が支出したゴルフ関連費用について争われたケースがあります。
本事案では、紹介獲得や関係構築などの目的が主張されていました。
しかし、税務上は、
・参加者との関係性
・支出内容
・私的要素の有無
などが検討され、必要経費該当性が問題となりました。
この事例から分かるのは、「事業に多少関係している」というだけでは、必要経費として直ちに認められるわけではないという点です。
納税者の主張は次のとおりでした。
【納税者主張】
- ゴルフプレー代は、顧客の開拓、取引先の接待、同業者及び金融機関関係者等との懇親や情報収集、本件事業の関連従事者等との親睦及び営業活動への連携を企図したものである
- そして、その相手先及び目的は、総勘定元帳及び帳票類に記載している。
- 顧問先と飲食やゴルフプレー等を共にすることは一般的で、また、新規顧客として期待できる者と飲食等を共にすることも営業活動の一環であり、事業関連性がないとはいえない。
- ゴルフレッスン大は、著名なレッスンプロによるレッスンである。それを受けることが、高額なレッスン代を負担できるレッスン生を顧客にする機会となり、かつ顧客とのゴルフプレー時の技量不足をカバーすることになり、営業トークの話題作りにもなる。
個人事業主の中には、専門家から「事業との関連性を説明できれば足りる」といった趣旨の助言を受けた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この納税者の主張に対して、国税不服審判所は、次のように結論を下しています。(一部省略)
【裁決内容】
- A氏が同業者や金融機関関係者等とゴルフプレー等をすることで、A氏の事業に関して有益な影響があり得るとしても、いずれもゴルフプレー等をしなければその目的を達することができない性質のものではない。
- 個人事業主は、事業所得の計算に当たっては、事業の必要経費と家事費とを明確に区分する必要がある。当該ゴルフプレーにおいては、私的な消費活動と認められる部分があり、家事費部分と事業の遂行上必要な部分が明らかに区別されているとは認められない。
つまりは、個人所得課税では、私的支出との区別が非常に重視されるため、必要経費として認められるためには、より慎重な説明が求められます。
④ 法人税では「交際費課税」の問題として整理されやすい
一方、法人の場合は、個人事業主とは異なる視点で整理される場面があります。
これは単に「法人の方が緩い」という話ではなく、所得税法と法人税法では、整理の枠組みが異なるためです。
個人事業主の場合、問題となるのは「必要経費に該当するか」そして「その必要経費と私的支出とを明確に区分できるか」です。
つまり、
・事業遂行上必要だったのか
・私的支出ではないか
・家事関連費ではないか
・必要経費と私的支出を明確に区分できているか
という観点から、「そもそも事業遂行上の必要経費として認められるか」が中心的な論点になります。
一方、法人税では、法人の支出である以上、個人所得課税とは視点が異なり、法人税では法人税法上の枠組みに沿って検討されます。交際費・寄付金・役員給与など、どの税務区分で整理するかという整理が中心的な論点となります。
特に中小法人では、一定額まで交際費の損金算入が認められる特例もあるため、実務上はその限度枠範囲内であれば「交際費としてどのように整理されるか」という観点が優先され検討される場面も少なくありません。
もちろん、損金算入限度枠内だからといって、その支出内容や経済的実態によっては否認リスクがなくなるわけではありません。
しかし、ここでポイントとなるのは、法人の場合には、上述の裁決事例のように「必要経費か否か」が直接的な争点となるのではなく、法人税の規定に基づく交際費に該当するか否かが優先的な争点となりやすいことです。
税務調査上の論点やアプローチにもこの違いが生じることとなります。
これは単なる制度運用の違いではなく、所得税法と法人税法の法的構造の違いによるものです。
税務調査の現場では、調査官もこうした税法構造の違いを意識しながら、どの論点で検討を進めるべきかを慎重に見極めているものと思われます。
また、税務上の否認も税法の枠組みを踏まえて整理する必要があるため、法人税と所得税では納税者へのアプローチに違いが生じる場面があります。
⑤ 実務上重要なのは「説明できる状態」にしておくこと
ゴルフ代に限りませんが、交際費関係で重要なのは、「経費に入れるかどうか」だけではありません。
実務上は、
・誰と行ったのか
・何の目的だったのか
・事業との関係性は何か
を説明できる状態にしておくことが重要です。
例えば、
・参加者
・日時
・目的
・取引先との関係
などを整理しておくことで、後から説明しやすくなります。
また、金額水準や頻度によっては、第三者から見て私的利用と区別しにくくなるケースもあります。
そのため、「形式上経費にできるか」だけでなく、
・第三者から見て説明可能か
・管理上不自然ではないか
という視点も重要になります。
⑥ 「経費になるか」だけで考えないことも重要
税務上、「グレーゾーン」と言われる支出は少なくありません。
しかし、経営上重要なのは、「経費になるかどうか」だけで判断しないことです。
特に法人では、
・金融機関
・株主
・取引先
など、税務署以外の第三者から見られる場面もあります。
そのため、
・管理体制
・説明可能性
・経営者としての判断基準
も含めて整理しておくことが重要です。
⑦ まとめ
ゴルフ代含め、交際費については、「取引先と行ったから経費になる」「法人なら自由に経費計上できる」といった単純な話ではありません。
個人事業主と法人では税務上の整理のされ方も異なります。
特に、個人事業主と法人では、税務上の論点整理に伴い調査上のアプローチが異なる点に注意が必要です。
個人事業主の場合には、
・必要経費に該当するか
・私的支出と明確に区分できているか
が強く問題となり、家事関連費との区別も含めて慎重な判断が求められます。
一方、法人の場合には、法人税法上の枠組みに沿って、
・交際費
・寄付金
・役員給与
など、どの税務区分で整理されるかという観点から検討される場面が多くなります。
これは単なる運用上の違いではなく、所得税法と法人税法の法的構造の違いによるものです。
そのため、「個人事業主では否認されたから法人でも同じ」あるいは「法人なら問題ない」といった単純な理解ではなく、税法上どのような論点で整理されるのかを踏まえて考えることがたいへん重要になります。
また、税務上の取扱いだけでなく、
・第三者から見て説明可能か
・経営管理上不自然ではないか
・記録や管理体制が整備されているか
という視点も重要です。
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