インボイス制度開始後、会計入力を確認していると、「請求書がない支払なので、8割控除で処理しました」
というケースを見かけることがあります。
特に、自計化を進めている会社ほど、現場で会計入力を行う機会が増えるため、消費税区分の判断ミスが経営数字に直接影響しやすくなっています。
税理士として確認していると、インボイス制度開始後は、この「制度の混線」が原因となる誤処理が非常に増えています。
実際、先日も、「通常の店舗からの仕入」でありながら、「軽減税率対象でもなく」「本来は標準税率課税仕入」について、「請求書がないため8割控除で入力していた」というケースがありました。
お話を伺うと、「インボイスがない場合は、8割だけ控除できると聞いた」とのことでした。ただ、ここには、インボイス開始前後の制度が混在した誤解があります。

「8割控除」とは何か
まず、ここで言う「8割控除」は、適格請求書発行事業者以外(=免税事業者)からの課税仕入について、一定期間、仕入税額控除を経過措置として認める制度です。
つまり、
「本来は控除できないものを、経過措置として一定割合控除できる」という制度です。
適格請求書(インボイス)制度下では、免税事業者は「適格請求書」を発行できません。
そのため、取引相手先の購入側は仕入税額控除ができなくなるため、免税事業者との取引は敬遠されたり、値下げ交渉を求められる傾向があります。
こうした制度導入過渡期の経過措置として、2026年9月30日までは80%、2029年9月30日までは50%の税額控除が取引先側で可能です。
これが「8割控除」です。
なお、この80%控除の経過措置は、2026年9月30日までとなっています。2026年10月1日以降は、控除割合が50%へ縮小される予定です。そのため、これまで「とりあえず8割で処理していた」という運用のままでは、今後さらに消費税負担や会計処理のズレが生じやすくなります。
特に、自計化を進めている会社では、
- どの取引先が免税事業者なのか
- なぜ経過措置を適用しているのか
- 今後50%控除へどう対応するか
を、会計ルールとして整理しておくことが重要になります。今後は、単なる入力処理ではなく、「どの制度による処理なのか」を区別しておく重要性がさらに高まります。
適格請求書発行事業者からの課税仕入れの場合には、この経過措置は適用されず、受け取った請求書を紛失したからといって、この「8割控除」を利用できないわけです。
ここで重要なのは、
- 「請求書がないから8割」
ではなく、 - 「相手が適格請求書発行事業者でない=免税事業者である」
ことが論点だという点です。
たとえば、単に領収書を紛失したケースや、レシート保存漏れ、請求書保管ミスなどは、今回の「80%控除」とは別問題になります。
「『1万円未満だから8割控除』、これも誤りです ― インボイス後に改正による消費税区分の混線」
自計化・会計入力を進めている会社ほど「1万円未満だから大丈夫」が混ざりやすい
実務上よくあるのが、「少額だから請求書不要だったはず」という感覚が残っているケースです。以前は、一定の少額課税仕入について、請求書保存がなくても帳簿保存により仕入税額控除が認められる取扱いがありました。
その感覚のまま、
- 「1万円未満」
- 「レシートなし」
- 「少額」
- 「8割控除」
が頭の中で結びつき、「請求書がなくても、8割で処理すればよい」という理解になってしまうことがあります。
ただ、現在は、「自動販売機」「公共交通機関」など限定された例外項目を除き、単に「少額だから」という理由だけで、請求書保存不要になるわけではありません。
また、80%控除は、「適格請求書発行事業者以外からの課税仕入」に対する経過措置です。
つまり、
- 「少額だから」
でもなく、 - 「請求書を紛失したから」
でもありません。
ここは実務上かなり混同されやすい部分です。

では、なぜ「少額だから大丈夫」が残っているのか?
実務上、「少額なら請求書がなくても仕入税額控除できるのでは?」という感覚が残っている方は少なくありません。それはどうしてでしょうか?
これは、消費税実務の中で、少額取引に関する取扱いが何度か変わってきたことも影響しています。
以前は「3万円未満」の帳簿保存特例があった
かつては、税込3万円未満の課税仕入について、一定事項を記載した帳簿保存があれば、請求書等の保存がなくても仕入税額控除が認められる制度がありました。
当時は、
- 少額取引
- 切符
- 飲食
- 細かな現場経費
などについて、保存の実務負担を考慮した取扱いがされていました。そのため、「少額なら請求書なしでも大丈夫」という感覚が、実務上かなり広く定着していました。
その後、「3万円未満特例」は廃止
ただ、この取扱いは税制改正により廃止されています。つまり現在は、単純に「少額だから」という理由だけで、請求書保存不要にはなりません。ここがまず一つ目の誤解ポイントです。
インボイス開始後は「少額(1万円未満)特例」が登場した
さらにインボイス制度開始後、少額特例(税込み1万円未満)が設けられました。
これは、税込1万円未満の課税仕入れについて、基準期間における課税売上高が1億円以下である事業者に限って、一定期間、請求書の保存がなくても帳簿保存のみで仕入税額控除できる少額特例制度です。
ただ、この制度は、「昔の3万円未満特例の復活」ではありません。
インボイス開始後の「1万円未満特例」は、以前の3万円基準とは別制度
この1万円の少額特例は時限措置で、2023年10月1日から2029年9月30日までの期間に限ります。
もっとも、この制度は、かつて存在した「3万円未満の課税仕入れに係る帳簿保存特例」とは別制度です。
旧制度の3万円特例は、少額取引一般について、請求書保存負担を軽減する趣旨が強かった一方、現在の1万円未満特例は、インボイス制度導入による事務負担緩和措置として、対象事業者・適用期間を限定して導入されています。
したがって、
- 適用対象者
- 適用期間
- 制度趣旨
はいずれも異なります。
ただ実務上は、
- 「少額なら請求書なしでも控除できた」
という過去の感覚と、 - 現在の1万円未満特例
- 80%控除経過措置
が混在し、「請求書がない → 少額 → 8割控除」という勘違いの整理になっているケースを現場でよく見かけます。
さらに「自販機特例」「公共交通機関特例」もある
加えて現在は、
- 自動販売機
- 公共交通機関
などについて、
一定事項の記載を前提に、適格請求書保存不要とする例外規定もあります。つまり現場では、
- 昔の3万円未満特例
- 現在の1万円未満少額特例
- 自販機特例
- 公共交通機関特例
- 80%控除経過措置
が頭の中で混在しやすい状態になっています。
その結果、「請求書がない → 少額 → 8割で処理」のように、
別制度同士が結びついた状態で、現場の入力処理が起きやすくなっています。
インボイス制度開始後は、消費税区分の判断が複雑化しており、
「何となく前からこの処理でやっている」という状態が、
会計ミスや税務リスクにつながるケースも増えています。
当事務所では、単なる税務申告だけでなく、
「なぜその処理になるのか」を経営者自身が理解できるよう、会計体制の整理や自計化支援にも対応しています。
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自計化時代の会計実務では「区分理由」を残した方が安全
特に中小企業では、経理担当者だけでなく、社長自身が会計入力を行うケースも増えています。そのため、「なぜその消費税区分なのか」が社内で共有されていないと、月次決算や経営数字の精度にも影響しやすくなります。
特にインボイス導入後は、
- 80%控除
- 50%控除
- 少額特例
- 自販機特例
- 公共交通機関特例
など、
例外処理がかなり増えています。そのため、「請求書がないから、とりあえず8割」のような入力が積み重なると、後から本人でも判別できなくなります。
実務上は、
- 相手先の登録状況
- なぜ経過措置を使ったのか
- どの特例を使ったのか
を最低限メモしておくだけでも、かなり整理しやすくなります。
最後に
インボイス制度開始後は、消費税区分の判断が以前より複雑になっています。特に、自計化を進めている会社では、「入力はできているが、区分理由が曖昧」という状態も少なくありません。
さいたま市で中小企業向けの税務・会計支援を行っている税理士として、最近はこうした「制度理解の混線」による消費税区分ミスの相談が増えています。
当事務所では、
- 消費税区分の整理
- 会計入力ルールの整備
- 自計化支援
- 月次決算を経営に活かす仕組みづくり
など、中小企業向けの会計・税務支援を行っています。
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