(副題) 税制改正の裏で進む契約形態の変更に要注意|【顧問税理士も教えてくれない実務上のチェックポイントをさいたま市の税理士が解説】
はじめに|リース更新時に「契約内容」が変わっているかもしれません
オフィスのパソコン、複合機、サーバーなどの設備更新で、これまでと同じようにリース契約を更新したつもりが、実は契約内容そのものが変わっていた――そんなケースが増えています。
毎月の支払額もほぼ同じで、営業担当からも特別な説明がない。そのため、多くの会社では従来どおり「リース料」として費用処理してしまいがちです。
しかし、2025年4月の税制改正をきっかけに、契約形態がリース契約から割賦販売契約(分割売買契約)へ変更されるケースが増えています。2025年4月の税制改正で施行されたのが、**「リース譲渡に係る延払基準の廃止」**です。
従来、リース会社はファイナンス・リース取引について契約期間に応じて分割で売上計上(延払基準)が可能でした。しかし改正後は原則として契約時点で一括収益計上する方式へ移行します。もっとも、経過措置として令和9年3月までに開始する事業年度については、繰延リース利益を5年間均等で収益計上することが認められています。したがって令和9年4月以降は完全適用となります。
この流れを受け、大手リース会社では従来のリース契約から割賦販売契約への切り替えが進んでいます。
たとえば、これまでオフィスで使用するパソコンや複合機を5年リースで契約していた場合、多くの会社では毎月のリース料をそのまま費用計上していたでしょう。しかし今後、契約更新時に「実質的な月額負担」が同じでも、契約形態そのものが売買契約へ変わっていることがあります。
この場合、会計処理も税務処理も大きく変わります。
この変化に気づかず、本来であれば固定資産計上すべきものを従来どおり費用計上してしまうと、税務申告上の誤りや申告漏れにつながる可能性があります。
重要なのは、税制改正そのものではなく、「契約書の中身が変わっていることに気づけるかどうか」です。
今回は、税制改正の裏側で進んでいる契約実務の変化と、リース契約更新時に注意すべき会計・税務処理について整理します。
税制改正による影響はなぜ専門家から周知されなかったのか?
公認会計士や税理士から顧客にこの改正が積極的に周知されなかった最大の理由は、この制度改正そのものが直接影響するのは貸し手側(リース会社)に限定されているからです。そのために借り手企業にとっては、一見すると「関係ない改正」に見えていたのです。
しかし、その裏側でリース会社は契約形態を変え始めています。結果として、本来税制改正の影響を受けない借り手側にも、会計・税務処理上の影響が出始めています。
会計・税務の現場では、「契約書自体をしっかり確認していない」「支払額が同じだから従来どおり処理している」「日頃から契約内容を会計・税務処理へ正確に反映する体制になっていない」などが原因で、この影響も見落とされやすくなっています。

そもそもなぜリース会社は契約形態を変えているのか?
税制改正後は、ファイナンス・リースであっても契約時に一括収益計上が必要になるため、従来のような収益平準化メリットが薄れました。その結果、リース会社にとって契約形態をリースのまま維持する意味が小さくなっています。むしろ割賦販売契約へ切り替えることで次のようなメリットがあります。
① 資産管理コストを減らせる
リース契約では所有権がリース会社に残るため、資産台帳管理や契約満了時の返却対応、回収・撤去手続きなどの管理負担があります。売買契約ならこれらが不要になります。
② 保守・故障対応の責任整理がしやすい
売買契約なら所有権が明確に移転するため、保証・修理・責任範囲が整理しやすくなります。
③ 契約終了時の残存価値リスクがなくなる
返却物件の中古価格下落や廃棄コストを負担しなくて済みます。
④ 会計・税務処理がシンプルになる
収益認識が一括化される以上、リース特有の繰延管理を維持するメリットが小さくなります。契約形態を売買へ寄せたほうが管理がシンプルになります。
転機となった税制改正とは?またその背景となる会計基準について
転機となった税制改正の内容とは?またその背景となる会計基準について
今回の税制改正が実務へどのような影響を及ぼすのかを理解するためには、その前提となるリース取引の分類と会計処理を整理しておく必要があります。
リース取引は大きく「オペレーティング・リース」と「ファイナンス・リース」に区分され、この区分によって会計・税務上の取扱いが異なります。
オペレーティング・リースとは
オペレーティング・リースは、資産の所有に伴うリスクや経済価値が貸し手側に残るリース取引です。
借り手は一定期間、その資産を使用する権利を得るにとどまり、契約終了後は原則として資産を返却します。そのため、借り手側では毎月支払うリース料を期間費用として処理することが基本となります。
一般的なレンタル契約や、保守サービスを含む一部の機器リースなどがこれに該当します。
ファイナンス・リースとは
これに対してファイナンス・リースは、法律上の所有権は貸し手に残っていても、経済的実態としては資産を購入した場合とほぼ同じ性質を持つリース取引です。
代表的な要件として、
- 契約期間中は原則として中途解約できないこと
- リース料総額によって貸し手が投下資本をほぼ全額回収すること(いわゆるフルペイアウト)
- 維持管理費用等を借り手が負担すること
などが挙げられます。
このような取引は、会計上は実質的な資産取得と考えられるため、借り手はリース資産とリース債務を計上し、減価償却を行うことが原則となります。
実務で広く利用されてきた「少額リース資産」の特例
もっとも、中小企業の実務では、すべてのファイナンス・リースについて資産計上を行うと経理負担が大きくなります。そこで設けられているのが、少額リース資産に関する簡便的な会計・税務処理です。
一定の要件を満たす少額のファイナンス・リースについては、リース資産やリース債務を計上せず、毎月支払うリース料をそのまま費用処理することが認められています。
経済的実態はファイナンス・リースであっても、少額であることを理由に、オペレーティング・リースとほぼ同様の経理処理が認められているというわけです。
ここが今回の記事の重要なポイントです。多くの企業では、この簡便処理を前提としてリース契約を更新してきました。しかし、契約形態がリース契約から割賦販売契約へ変更されると、この「少額リース資産の特例」を適用する前提そのものが失われます。
その結果、毎月の支払額が変わらなくても、従来どおり費用処理を続けることが認められず、資産計上・減価償却へ切り替える必要が生じるのです。
今回の税制改正が変えたのは貸し手側の収益構造
2025年に廃止されたのは、リース会社側の「延払基準」です。従来は契約期間に応じて売上を分割計上できました。しかし改正後は契約時点で原則一括収益計上となります。
貸し手側から見ると、リース契約として維持する税務上のメリットが薄れたことになります。その結果、すでに前章で解説のとおり、契約形態を割賦販売契約へ切り替える合理性が高まりました。
ここが今回の実務ミスの根本原因
そして問題はここからです。
借り手側の感覚では、「毎月3万円払う」「5年間使う」という実質負担が変わらない契約を更新するとき、これまでと同じリース契約の単純更新だろうと思い込みやすいものです。
さらに実務上注意したいのは、実際の契約書を見ると、契約形態の変更が非常に分かりにくいケースがあることです。
表面的には従来と同じように、毎月同額の支払いで契約期間も同じであり、更新案内の流れもほぼ同じという形になっており、一見すると単なるリース契約の更新に見えることがあります。しかし契約書を細かく確認すると、所有権移転条項や売買条件、保守責任の整理などが従来と変わっており、実質的には割賦販売契約へ切り替わっているケースがあります。
こうした契約設計自体は合理的なものですが、借り手側から見ると変更点が直感的に把握しづらく、「従来どおりのリース契約」と誤認しやすい構造になっています。
さらに実務上注意したいのは、契約形態の変更が、必ずしも借り手側に十分意識される形で行われているとは限らないことです。実際には、毎月の支払額や契約期間は従来とほとんど変わらず、営業担当からも契約変更による会計・税務処理への影響について詳しい説明がないまま契約更新が進むケースもあります。契約書も一見しただけでは従来契約との違いが分かりにくく、結果として「今までどおりのリース契約」と思い込んでしまいやすい点には注意が必要です。
その結果、経営者が契約変更による会計・税務上の影響を十分に認識しないまま手続きが進み、経理処理も従来どおり継続されてしまうことが起こりやすいのです。
加えて、税理士や会計士からの説明でも、リース取引の税制改正そのものは借り手企業への直接影響が限定的であることや、新リース会計基準の適用時期がまだ先であることから、「今すぐ大きな影響はない」という理解にとどまりやすいのが実情です。
しかし、その説明の中で見落とされやすいのが、少額リース資産の特例が使える前提そのものが、契約形態によって変わるという点です。
その結果、契約実態がこれまではファイナンスリース取引(少額リース資産の特例により全額費用処理)であったものが、今年から割賦販売契約(資産計上必須)へ変更されていても気づかず、従来どおり費用処理してしまうという間違った処理が起こり得ます。
繰り返しになりますが、リースの税制改正そのものが借り手に直接影響するわけではありません。しかし、それがきっかけとなってリース契約形態自体が変わることで、借り手側の会計・税務処理が大きく変わってしまうのです。
ここが今回もっとも注意すべき現場実務上のポイントです。
売買契約へ変わると何が変わるのか?
ここが今回の記事でもっとも重要なポイントです。例えば、総額180万円のパソコン一式を5年間の分割払いで導入したケースを考えてみましょう。
従来どおりファイナンス・リース契約(少額リース資産の特例適用)であれば、毎月支払うリース料をその都度費用として処理することができます。
一方、契約形態が割賦販売契約へ変更されている場合は、契約時点で取得価額180万円を固定資産として計上し、採用している減価償却方法(定額法・定率法)および法定耐用年数に基づき減価償却を行わなければなりません。また、分割払いに含まれる利息相当額については支払利息として区分経理する必要があります。毎月の支払額が従来とほとんど変わらなくても、会計処理・税務処理は全く異なるものになります。
さらに注意しなければならないのは、契約形態の変更に気付かず、従来どおりリース料として費用処理を続けてしまった場合です。
定率法を採用している法人では、本来計上すべき減価償却費より損金経理額が不足する年度が生じます。本来であれば、その不足額は固定資産台帳および別表十六で管理され、後年度における減価償却費との関係で調整されます。しかし、固定資産計上も行わず、別表十六による管理もされていない場合には、その償却不足額自体が税務上存在しないことになります。
その結果、後年度において本来であれば過去の償却不足額と調整できる減価償却費についても、法人税法上損金算入が認められない部分が生じる可能性があります。これは単なる仕訳ミスではなく、将来の法人税額にも影響し得る問題です。
なお、この問題は、主として定率法を採用する有形固定資産で生じやすい論点です。例えば、ソフトウェアなど無形固定資産として計上すべき資産は、法人税法上、原則として均等償却となるため、リース料相当額と減価償却費との差異が生じにくく、上記のような償却不足額の繰越しが問題となる場面は多くありません。もっとも、契約形態が売買契約である以上、本来は固定資産計上や減価償却、支払利息の区分経理、消費税の処理などを適切に行う必要がある点に変わりはありません。
また、消費税についても注意が必要です。売買契約では、原則として資産の引渡時点で課税仕入れが成立します。一方、リース契約として処理してしまうと、仕入税額控除の時期を誤ることとなり、修正申告の対象となる可能性があります。
5 契約更新時に確認すべきポイント
今回の税制改正で本当に注意すべきなのは、税制改正そのものではありません。確認すべきなのは、契約書の内容が従来と変わっていないかという点です。
契約更新時には、少なくとも次の点を確認することをおすすめします。
- 契約名称がリース契約から売買契約・割賦販売契約へ変更されていないか
- 所有権の帰属が変更されていないか
- 契約終了時の返却義務がなくなっていないか
- 保守・保証の責任分担が変わっていないか
- 会計処理について顧問税理士へ契約書を提示したうえで相談したか
毎月の支払額が変わらないからといって、会計処理まで同じとは限りません。前年踏襲で処理することが、かえって誤りにつながる可能性があります。
まとめ|税制改正よりも「契約内容」を確認してください
2025年の税制改正は、直接的にはリース会社側の税務処理を見直すための改正でした。そのため、多くの専門家が「借り手企業への影響は限定的」と説明してきたこと自体は誤りではありません。
しかし、その税制改正を契機として、リース会社では契約形態を割賦販売契約へ切り替える動きが広がっています。そして、その契約変更が借り手企業に十分認識されないまま契約更新が進められた結果、会計処理・税務処理を従来どおり行ってしまうリスクが生じています。
今回、本当に注意すべきなのは税制改正そのものではありません。
「契約書の中身が変わっていないか」を確認すること。
これが、今回の記事で最もお伝えしたかったポイントです。
リース会社による契約形態の見直しは、今後もしばらく続く可能性があります。
「支払額は変わらないから、会計処理も今までどおりで大丈夫だろう」という思い込みが、思わぬ会計・税務上の誤りにつながることがあります。
契約更新の際には、支払条件だけでなく、契約の法的性質そのものが変わっていないかという視点でも契約書を確認することが重要です。
特に、パソコン・サーバー・複合機・ソフトウェアなどの設備更新で契約内容に変更があった場合には、一度、会計・税務処理が適切かどうかを確認しておくことをおすすめします。
契約書は「契約名」ではなく、「契約内容」を確認して初めて適切な会計・税務処理が判断できます。当事務所では、その実質に着目した実務的なアドバイスを行っています。
契約更新後の処理に不安がある場合や、「これまでどおりの処理で本当に問題ないのだろうか」と感じられた場合は、お気軽にご相談ください。
お気軽にお問い合わせください。
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