元商社で20年間、投資審査・経理業務に携わった税理士が、不動産投資を「節税」ではなく「投資採算」の視点で整理します。

2013年の異次元金融緩和、2016年のマイナス金利政策以降、日本の不動産市場は長く金融緩和の恩恵を受けてきました。
さらにコロナ禍では、実質無利子融資や各種給付金により市場に大量の資金が流入し、不動産価格は一段と上昇しました。この局面で不動産投資へ参入した経営者の方も少なくありません。加えて、中国不動産市場の混乱を背景に、一部では海外資金流入も価格上昇要因とされてきました。

しかし足元では、日銀の金融政策修正を背景に金利上昇局面へ移行しつつあります。加えて、現政権による経営管理ビザ制度の厳格化もあり、この厳格化との因果関係自体は明らかではありませんが、これまで市場を支えてきた海外投資マネーにも足元ではやや慎重な動きが見られます。

こうした環境変化を受けて、一部の市場関係者の間では「不動産バブルの終焉」という見方も出始めています。少なくとも、これまで成立していた表面利回りベースの投資採算については、今後、エリアや物件ごとの選別がこれまで以上に重要になる局面に入ったと言えるでしょう。

特に、ゼロ金利時代の追い風の中で、業者や金融機関、時には専門家から「節税になる」「資産になる」と提案を受け、副業的に不動産投資へ踏み出した経営者にとっては、今あらためてその投資判断そのものや「出口戦略」を検証し直す局面に入ってきています。

私はこれまで、投資実行の場面だけでなく、その前段階の投資審査にも長く携わってきました。だからこそ感じるのは、入口で本来検証されるべき採算性や撤退条件が十分整理されないまま、不動産投資が進められているケースが少なくないということです。

今回は金利上昇局面における不動産投資の見方を整理します。

まず整理したい「投資採算」の考え方

私は商社時代、事業投資の審査に長く携わってきました。不動産投資に限らず、投資案件を見るときに最初に確認するのは、「その投資が投下した資本に見合う収益を生む構造になっているか」という点です。
私が見るポイントはシンプルです。

  • 実質利回りはどれくらいか
  • 投資コスト(資本コスト・借入コスト)を上回っているか
  • 将来の修繕費まで織り込めているか
  • 途中で撤退できる出口があるか

この4つです。逆に言えば、この4つが整理されないまま進められた投資は、入口で見えていた数字と出口で残る数字が大きくズレやすくなります。これまでのゼロ金利時代は、このズレが表面化しにくい環境でした。しかし金利が上がり始めた今、そのズレが少しずつ顕在化してくる局面に入っています。

表面利回りだけで投資判断していないか?

不動産投資の提案では、「表面利回り◯%」という数字がよく使われます。
しかし、この数字だけで判断するのは危険です。
重要なのは、次のコストを差し引いた実質利回りです。

  • 管理委託費
  • 修繕積立金
  • 固定資産税
  • 保険料
  • 税理士報酬
  • 仲介手数料
  • 借入利息

これらを差し引いた後、さらに空室率も加味して初めて本当の採算が見えてきます。そして、この実質利回りを、少なくとも借入金利と比較することが重要です。

投資である以上、実質利回りが借入利率を下回るのであれば、その時点で投資採算は崩れています。
さらに足元のキャッシュフローも悪化して、市場価格も取得価格を下回っているのであれば、その物件の資産性は毀損しつつある可能性があります。この場合、出口戦略を早急に見直す必要がありわけです。

「節税になるから続ける」は危険

不動産投資では減価償却による節税メリットが語られることがあります。確かに建物部分については減価償却費を計上でき、課税所得を圧縮できます。しかし、これはキャッシュが増えるわけではありません。あくまで税負担の一部を後ろへ繰り延べている側面があります。

さらに築年数が進めば、外壁修繕や給排水設備更新・空調更新・原状回復費など、大規模修繕コストが発生します。こうした支出は将来のキャッシュフローを圧迫します。
そのため、「節税できているから持ち続ける」という判断だけでは不十分です。

特に見落とされやすいのが、税法上の法定耐用年数と物件そのものの経済寿命は必ずしも一致しないという点です。減価償却が終了すると、それまで利益を圧縮していた減価償却費がなくなり、帳簿上の利益が増えやすくなります。その結果、税負担が増え、税引後キャッシュフローが想定以上に悪化することがあります。一方で、その頃には建物の老朽化も進み、大規模修繕や空室リスクへの対応負担も重くなりやすい局面です。利益が出ていても手元キャッシュが残らない状態では、投資としての継続合理性は慎重に見直す必要があります。
この段階になってから提案した業者や専門家へ相談を始めても、取り得る出口戦略の選択肢は、すでに大きく狭まっていることも少なくありません。

採算が崩れているなら、足元の金利上昇局面を踏まえるまでもなく、継続保有か売却かを冷静に再検討する必要があります。

空室リスクを織り込んだ収支シミュレーションが必要

もう一つ見落とされやすいのが空室リスクです。提案時の収支表は満室前提で作られていることが多いものです。しかし実際には、入居者入替や地域人口減少、周辺供給増加などで空室率は変動します。

特に地方都市や築古物件では、この影響が大きくなります。収支を見るときは、最低でも5〜10%程度の空室率を織り込んでシミュレーションしておきたいところです。

サブリース契約付き物件は出口で制約が出ることも

「サブリース付きだから安心」という提案もよくあります。確かに空室リスクの平準化という意味では一定のメリットがあります。

ただし契約内容によっては、「中途解約制限」、「賃料改定条項」「承継条件」などがあり、売却時に制約となることがあります。実際に、こうした契約条件が買い手に敬遠され、市場価格より大幅に低い評価となるケースもあります。
サブリース付き物件は、保有時だけでなく売却時の条件まで確認しておくことが重要です。

まとめ

不動産投資は、始める時よりも続ける時、そして終わらせる時の判断の方が難しい投資です。特にゼロ金利時代に成立していた投資採算は、金利上昇局面では少しずつ前提が崩れやすくなります。

重要なのは、

  • 実質利回りは十分か
  • 投資コスト(資本コスト・借入コスト)を上回っているか
  • 空室リスクを織り込んでいるか
  • 修繕負担を将来まで見積もれているか
  • 出口戦略を描けているか

この整理です。

「節税になっているから続ける」、「最後に自分の資産として残るから持ち続ける」という判断だけでは、投資全体の採算を見誤ることがあります。投資は、最終的にどれだけキャッシュを残せるかで評価されます。
利益が出ていても、投資コスト(資本コスト・借入コスト)を上回るリターンを生めず、税引後キャッシュフローが残らないのであれば、その投資は経営資源の配分として再検討する余地があります。

さいたま市で、不動産投資の継続判断や出口戦略について、税務だけでなく決算書や資金繰りを踏まえて整理したい方は、お気軽にご相談ください。

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