国内債券市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時、3%を突破しました。10年物国債利回りが3%台となるのは1996年以来で、約30年ぶりの水準です。
3%の大台を記録した背景には、日米の中央銀行によるインフレ抑制のための利上げ観測が強まったことに加え、財政への懸念も重なり、投資家の債券売りが広がったことなどが挙げられます。
ここで、別の金利上昇局面についての記事でも触れましたが、あらためて、これまでの長期的な経緯を振り返ってみます。
2013年の異次元金融緩和、2016年のマイナス金利政策、さらにコロナ禍における実質無利子融資や各種給付金による投資市場への大量な資金の流入。加えて、中国国内の経済成長の足かせとなった不動産市場の混乱を背景とした海外資金の流入なども、不動産市場を取り巻く環境に影響を与えてきました。
そして足元では、日米の中央銀行によるインフレ抑制を目的とした利上げ局面という状況です。
こうした環境変化を受けて、前回投稿では中小企業経営者における「不動産投資」について、以下の警鐘を鳴らしました。
「これまで成立していた表面利回りベースの投資採算については、今後、エリアや物件ごとの選別がこれまで以上に重要になる局面です」
「特に、ゼロ金利時代の追い風の中で、業者や金融機関、時には専門家から『節税になる』『資産になる』と提案を受け、副業的に不動産投資へ踏み出した経営者にとっては、今あらためてその投資判断そのものや『出口戦略』を検証し直す局面です」
とも申し上げました。
今回は、ここから一歩踏み込んで考えてみます。
最近、皆さんがよく耳にするようになった「10年物国債利回り」。この数字は、不動産投資をはじめとする投資判断において、非常に分かりやすい客観的な物差しになります。
私はこれまで、投資実行の場面だけでなく、その前段階となる投資審査にも長く携わってきました。そこで学んだことは、投資実行する前に本来検証すべき採算性や撤退条件が十分整理されないまま、見切り投資が実行された案件は、ほとんどが当初の利回りを下回り、追加投資や撤退を余儀なくされているということです。
はじめて不動産投資にかかわる方の中にも、そうしたケースは少なくありません。
今回あらためて、さいたま市の税理士が、高金利時代における不動産投資の在り方について解説いたします。
10年物国債利回りは、投資判断の「物差し」
今回、あらためて注目していただきたいのが、10年物国債利回りです。
円建ての投資判断においては、「10年物国債利回り」が実務上、実質的な「リスクフリーレート」としてよく使用されます。投資の世界では、投資リスクを伴わない利回りを「リスクフリーレート」と呼びます。もちろん、厳密に言えば国債にも価格変動等のリスクがあります。
しかし、満期まで保有することを前提とすれば、国債は元本と利息を受け取ることができるため、円建ての投資計算において、実務上の比較対象として非常に重要な意味を持ちます。
つまり、今回の10年物国債利回り3%超という数字は、単なるニュース上の数字ではありません。
これからの「投資」というものを考える際に、非常に分かりやすい基準となる数字です。
3%国債と、不確実リスクのある不動産投資
ここで、非常に単純な比較をしてみます。
足元で10年物国債の利回りが3%前後であれば、「10年間、平均して3%を超える実質利回りを、安定的かつ確実に稼げる不動産なのか?」という比較です。
例えば、ある不動産投資について、「表面利回り5%です」と提案されたとします。
一見すると、10年物国債の3%より2%も高い。だから、不動産投資の方が有利だと考えるかもしれません。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。
10年物国債と不動産投資では、負っているリスクがまったく違うからです。不動産投資には、「空室率の変動」「賃料の下落」「修繕費の増加」「固定資産税等の負担」「借入金利の上昇」「不動産価格の下落」「売却時の市場環境」など、将来の収益を左右するさまざまな要因があります。
つまり、今現在、机上で5%の実質利回りが計算できたとしても、将来その5%が確実に手元に残る保証はありません。
これが投資リスクです。
一方、投資リスクを伴わない利回りのことを、投資の世界では「リスクフリーレート」と呼びます。
円建ての投資計算において、実質的な国内リスクフリーレートとして、実務上で使用されるのが、今回の「国債10年物利回り」です。
ここで誤解していただきたくないのは、「不動産の実質利回りが3%を超えていれば投資してよい」という話ではないということです。不動産投資には、国債にはないさまざまなリスクがあります。国債利回りを最低限の比較対象としたうえで、さらにその物件が抱えるリスクを洗い出し、あなたがそのリスクを抱えるだけの負担量に見合った高収益が得られるのかを見極める必要があります。
言い換えると、例えば、「国債3%に対して不動産4%だから不動産の方が有利」という単純な比較ではないということです。つまりはその1%の上乗せ収益を得るために、空室や修繕、価格下落、借入金利上昇などのリスクを負う価値が本当にあるのか。ここまで考えて、初めて投資判断になります。
「インフレだから不動産は買い時」という営業には注意
不動産業界の方から、「インフレは今後も進むはずですよ」「今のうちに買っておけば、将来、転売するときに高く売れます」「建築資材や人件費も上がっているので、今こそ安く買える買い時です」などといった営業を受けることがあるかもしれません。
しかし、ここでも冷静に判断する必要があります。確かに、インフレによって建設資材や人件費などが高騰すれば、建設コストが上昇することになります。その意味では、新築不動産の価格を押し上げる要因になる可能性があります。
しかし、「インフレが進む=自分が購入した不動産が将来必ず高く売れる」ということではありません。将来の売却時期における市場の需給バランス、金利、人口動態、賃貸需要など、複数の要因によって最終的なリターンは変わります。不動産投資である以上、将来の売却価格を確実に予測することはできません。
だからこそ、セールストークだけを鵜呑みにせず、「その前提が崩れた場合でも投資として成立するのか」を考えておく必要があります。
あなたの投資リスクは「あなた固有のリスク」です
さらに重要なのは、投資リスクは物件そのものだけで決まるわけではないということです。あなたが投資で抱えるリスクは、単純な不動産市場のファンダメンタルだけではありません。
あなたの家庭環境、事業環境、手元資金、既存借入、今後の設備投資、さらには銀行とのお付き合いなど、さまざまな事情によって変わります。つまり、あなたの投資リスクは、あなた固有のリスクなのです。
同じ1億円の不動産であっても、十分な自己資金を持ち、本業のキャッシュフローも安定している経営者と、事業資金にも余裕がなく、既存借入も多い経営者では、その投資が意味するリスクはまったく異なります。
だからこそ、「この物件は儲かるのか?」だけではなく、「自分はこのリスクを負っても大丈夫なのか?」まで考えなければなりません。
あなたの事情を知らない他人から「良い投資ですよ」と言われたからといって、それだけで投資決定してしまうのはたいへん危険です。
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投資判断で最も重要なのは「失敗した場合」を考えること
私はこれまで、投資実行だけでなく、その前段階となる投資審査にも携わってきました。その経験から強く感じるのは、投資を実行する前に、「この投資は本当に成立するのか」だけではなく、「もし想定どおりにいかなかった場合、どこまでなら耐えられるのか」を考えておくことの重要性です。
事業経営も同じです。皆さんが経営されている事業が、常に計画通りに進むわけではありません。売上が計画を下回ることもあります。想定外の設備投資が必要になることもあります。人件費や仕入価格が上昇することもあります。
だからこそ、投資についても「うまくいった場合」だけを計算してはいけません。家賃が下落したらどうなるのか。空室が増えたらどうなるのか。金利がさらに上昇したらどうなるのか。想定した価格で売却できなかったらどうなるのか。
こうしたケースまで考えて、それでも事業や生活に大きな影響を与えない投資なのかを判断する必要があります。
長期金利3%超は「通過点」でしかない?
今後、日銀の金融政策や物価動向などによって、長期金利がさらに上昇する可能性もあります。仮に長期金利が今後さらに上昇すれば、投資判断における「比較対象となる利回り」も変わっていきます。
金融専門家でも意見は分かれます。ですが、あなたは学者でなく投資家であり、あるいは経営者なのです。
不確実なファクターに対しては常にワーストシナリオを想定して事を進める。それが投資家にとっての最善の基本姿勢であると考えます。
そう考えると、今回の3%という数字を、「3%になったから危険」と考えるのではなく、「これまでとは投資判断の前提が変わった」と捉えるべきでしょう。
ゼロ金利時代には、ほとんど利回りの得られない資産と比較して、不動産の利回りが魅力的に見えました。しかし、低リスクで得られる利回りそのものが上昇すれば、当然、リスクのある投資に求められるリターンも変わってきます。
だからこそ、これまで低金利を前提として行われてきた不動産投資についても、今一度、現在の金利環境を前提に投資判断を見直す必要があります。
まとめ|金利上昇時代の不動産投資は「利回り」だけでは判断できない
今回の10年物国債利回り3%超というニュースは、不動産投資を考える経営者にとっても、決して他人事ではありません。10年物国債利回りは、円建ての投資判断において、実務上のリスクフリーレートとして一つの重要な比較対象になります。
だからこそ、「この不動産投資は、10年物国債を上回る、さらにはリスクに見合っただけのリターンを得られるのか?」という視点を持つことがとても重要になります。
言い換えれば単純に「3%を超えればよい」という話ではないということです。不動産投資には、国債にはないさまざまなリスクがあります。あなたが「そのリスクを負うことの代償に見合うだけの十分なリターンが得られるのか」をしっかり見極めなければなりません。
そして、あなたが投資で抱えるリスクは、単純な不動産市場のファンダメンタルだけで決まるものではありません。あなたのご家庭、事業環境、手元資金、既存借入、今後の事業投資、銀行とのお付き合いなど、あなた固有の事情によって決まるものです。
我々は数字の専門家でしかありません。しかし、だからこそ、あなたの投資判断の基礎となる数字と考え方をご提供することはできます。
投資をするかどうかを決めるのは、あくまで経営者ご本人です。
その判断を、業者や金融機関などの「おすすめ」だけに委ねるのではなく、ご自身の数字に基づいて判断していただきたいと思います。
今後の事業運営や投資判断にお悩みの方、また不動産投資を含めた今後の経営全般についてご相談されたい方は、ぜひご連絡ください。
初回は無料相談とさせていただいておりますので、お気軽にお問い合わせください。
さいたま市を中心に埼玉県内において、税務・会計だけでなく、資金繰りや投資判断など、経営者の皆様の意思決定を数字の面からサポートいたします。
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