国内債券市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りは、大台の3%を突破して、3%はすでに通過点となりつつあります。2013年の異次元金融緩和、2016年のマイナス金利政策、さらにコロナ禍における実質無利子融資や各種給付金による投資市場への大量な資金の流入。加えて海外資金の流入などにより、これまで不動産市場はミニバブルの様相を呈していました。しかし、足元では日米の中央銀行によるインフレ抑制を目的とした利上げ局面という状況です。
こうした環境変化を受けて、前回投稿では中小企業経営者における「不動産投資」について、以下の警鐘を鳴らしました。
「これまで成立していた表面利回りベースの投資採算については、今後、エリアや物件ごとの選別がこれまで以上に重要になる局面です」
「特に、ゼロ金利時代の追い風の中で、業者や金融機関、時には専門家から軽々に『節税になる』『資産になる』と提案を受け、副業的に不動産投資へ踏み出した経営者にとっては、今あらためてその投資判断そのものや『出口戦略』を検証し直す局面です」
とも申し上げました。
今回は、ここから一歩踏み込んで考えてみます。
長期金利上昇に伴って、皆さんがよく耳にするようになった「10年物国債利回り」。
この数字は、インデックス投資だけでなく不動産投資などのあらゆる投資判断において、非常に分かりやすい客観的な物差しのひとつでもあります。
私はこれまで、投資実行の現場だけでなく、その前段階となる投資審査にも長く携わってきました。そこで学んだことは、投資実行する前に本来検証すべき採算性や撤退条件が十分整理されないまま、見切り投資が実行された案件は、ほとんどが当初の利回りを下回り、追加投資や撤退を余儀なくされているということです。
はじめて不動産投資にかかわる方の中にも、そうしたケースは少なくありません。
今回あらためて、さいたま市の税理士が、金利上昇局面における不動産投資の在り方について解説いたします。
10年物国債利回りは、投資判断の「物差し」
今回、あらためて注目していただきたいのが、10年物国債利回りです。
円建ての投資判断においては、「10年物国債利回り」が実務上、実質的な「リスクフリーレート」としてよく使用されます。投資の世界では、投資リスクを伴わない利回りを「リスクフリーレート」と呼びます。もちろん、厳密に言えば国債にも価格変動等のリスクがあります。
しかし、満期まで保有することを前提とすれば、国債は元本と利息を受け取ることができるため、円建ての投資計算において、実務上の比較対象として非常に重要な意味を持ちます。
つまり、今回の10年物国債利回り3%超という数字は、単なるニュース上の数字ではありません。
これからの「投資」というものを考える際に、非常に分かりやすい基準となる数字です。
不確実性のある不動産投資利回り
ここで、非常に単純な比較をしてみます。
足元で10年物国債の利回りが3%前後であれば、「10年間、不動産投資に資金を投じることで、国債の利回りを上回るだけの収益を安定的かつ確実的に得られるのか?」という比較です。
例えば、ある不動産投資について、「表面利回り5%です」と提案されたとします。
一見すると、10年物国債の3%より2%も高い。だから、不動産投資の方が有利だと考えるかもしれません。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。
10年物国債と不動産投資では、負っているリスクが大きく異なるからです。
不動産投資には、「空室率の変動」「賃料の下落」「修繕費の増加」「固定資産税等の負担」「借入金利の上昇」「不動産価格の下落」「売却時の市場環境」など、将来の収益を左右するさまざまな要因があります。つまり、現在の収支から5%の「実質利回り」が計算できたとしても、将来その5%が確実に手元に残る保証はありません。
これが投資リスクです。
一方、投資リスクを伴わない利回りのことを、投資の世界では「リスクフリーレート」と呼びます。
円建ての投資計算において、実質的な国内リスクフリーレートとして、実務上で使用されるのが、今回の「国債10年物利回り」です。
ここで誤解していただきたくないのは、「不動産の『実質利回り』が3%を超えていれば投資してよい」という話ではないということです。不動産投資には、国債にはないさまざまなリスクがあります。国債利回りを最低限の比較対象としたうえで、さらにその物件が抱えるリスクを洗い出し、あなたがそのリスクを抱えるだけの負担量に見合った高収益が得られるのかを見極める必要があります。
言い換えると、例えば、「国債3%に対して不動産4%だから不動産の方が有利」という単純な比較ではないということです。つまりはその1%の上乗せ収益を得るために、空室や修繕、価格下落、借入金利上昇などのリスクを負う価値が本当にあるのか。ここまで考えて、初めて投資判断になります。
不動産業界の「利回り」と、ファイナンス上の「投資収益率」は別物
ここで一言だけ断わっておきます。
私がここで申し上げている「実質利回り」は不動産業界で一般的に使用されている『実質利回り』とは異なります。ここでは、投資額全体と投資期間中のキャッシュフロー、売却時の収支まで含めて算出する、いわゆるファイナンス上の「IRR」を指しています。
不動産業界で使われる「表面利回り」や「実質利回り」「NOI利回り(Cap Rate)」などは、それぞれ一定の計算方法に基づく不動産物件の収益性や営業収益力を把握するための指標です。しかし、これらは必ずしも、投資家が実際に投じた資金について、投資期間全体でどれだけの収益を得たのかを示すものではありません。
例えば、物件価格だけを分母として計算するCap Rateでは、取得時の諸費用や初期CAPEX、保有期間中のキャッシュフロー、さらに売却時の収支までを一つの指標にまとめて評価しているわけではありません。
そこで、投資家自身の投資判断という観点から、投資期間全体の収益性を見る場合には、IRR(内部収益率)というファイナンス上の指標が重要になります。IRRは、初期投資額だけでなく、保有期間中のキャッシュフローや最終的な売却によるキャッシュフローまで含めて、その投資が実質的にどの程度の年率収益率を生み出したことになるのかを表す指標です。
したがって、国債との比較を行うのであれば、不動産業界固有の「利回り」という数字だけを見るのではなく、投資期間やキャッシュフローの条件を揃えたうえで、投資全体のIRRを確認するという考え方が重要になります。
不動産で一般的に使用される指標と、投資家の立場から投資全体を評価するIRRとの違いを、簡単に整理すると以下のようになります。
| 指標の一般呼称 | 計算 | 何を見るための指標か |
|---|---|---|
| (不動産業界の)表面利回り | 年間賃料 ÷ 物件価格 | 物件の表面的な賃料収入率 |
| (不動産業界の)実質利回り | (年間賃料-経費)÷ 物件価格など | 経費を考慮した物件の収益率 |
| NOI利回り ( Cap Rate) | NOI(年間営業純利益) ÷ 物件価格 | 物件価格ベースの利回り。イールドスプレッドの算出に使用。 ※NOI(営業純利益)は、日常的な管理費や修繕費(OPEX) を考慮していますが、外壁塗装、屋上防水、エレベーター などの大規模修繕費用(CAPEX)は考慮されていません。 したがって、Cap RateのようなNOIベースの利回りだけでは、 不動産収益力を過大評価してしまう可能性があります。 |
| FCR | NOI÷物件購入総額(本体価格+購入諸経費) | NOIを分子とするCap rateと同様に、 CAPEX(大型修繕工事費用)が通常考慮されません。 |
| CCR | 税引前CF ÷ 自己資金 | 自己資金に対してどれだけCFを生み出しているか |
| IRR | 投資期間全体のキャッシュフローから算出 | 投資期間全体を通じた年率換算の投資収益率 |
なお、IRRが高ければ、それだけで投資すべきという意味でもありません。重要なのは、IRRがその投資に要求される収益率、すなわちリスクを考慮した要求収益率(ハードルレート)を上回っているかという点です。
不動産投資を見る際には、「利回り○%」という一つの数字だけを見るのではなく、その数字が何を分子・分母として計算され、どのリスクを織り込んでいるのかまで確認することが重要なのです。
いずれにしても、曖昧で耳障りの良いセールストークや、専門用語ばかりを並べた説明に惑わされることなく、まずはあなた自身で収益計算をしてみることが、投資判断の第一歩です。※「実質利回り」という表現は不動産業界でも計算方法が一様ではないため、業者や専門家が「利回り」と発言した場合には、その発言の根拠となる実際に使用されている計算式や正式名称をしっかり確認する必要があります。
不動産投資の伝家の宝刀|レバレッジ効果は金利上昇でも使い物になるのか?
「不動産投資するなら、投資信託(S&P500)で良くない?」
SNS上では、こうした議論が、一般投資家だけでなく、不動産投資の専門家も交えて行われています。
「たしかにS&P500の期待収益率が7~10%程度だとすれば、同程度の表面利回りの不動産物件と比較した場合、インデックス投資の方がよいと思われがちだ。しかし、不動産投資では金融機関から融資を受け、自己資金だけではなく借入金を活用することで、自己資本に対する収益率を高められる」
これが、不動産投資の専門家がよく語る「金融レバレッジ」の考え方です。
金融レバレッジとは、金融機関からの借入金のような自己資本以外の資金を活用することで、自己資本だけで投資する場合と比べて、自己資本に対する収益率を高める効果をいいます。
確かに、低金利の時代には、このレバレッジ効果は不動産投資における大きな武器となってきました。
しかし、このレバレッジ効果には、一つの重要な条件があります。
それは、投資対象のROA(総資産利益率)が、借入金の負債利子率を上回っているかどうかです。一般化すると、ROAが負債利子率を上回っている場合には、借入金を活用することで自己資本利益率(ROE)を押し上げる方向に働きます。
一方、ROAが負債利子率を下回ると、借入金を増やすほど支払利息の負担が収益を圧迫し、自己資本利益率を押し下げる方向に働きます。つまり、レバレッジは「借入を増やせば増やすほど有利」という万能な仕組みではありません。
では、そのような状況とは、どのような状況でしょうか。
変動金利は足元では依然として低水準ですが、不動産投資では、物件の取得から最終的な売却まで、長期間にわたって保有するケースがあります。
ここでは、投資サイクルを仮に20年としましょう。
この投資サイクル20年の折り返しとなる10年後、変動金利がどの程度まで上昇しているかは、現在の時点では誰にも分かりません。
そこで、将来の借入金利が3%程度まで上昇するというストレスシナリオを考えてみます。
現在の日銀の政策金利は1.25%程度ですが、長期金利はすでにそれを大きく上回っています。2026年9月24日現在、長期金利の指標となる新発10年国債利回りは3.08%前後の水準にあります。
もちろん、10年国債利回りと不動産融資の変動金利は同じものではありません。10年国債利回りが3%を超えたからといって、不動産融資の金利も直ちに3%になるという意味ではありません。しかし、20年という長期の投資サイクルを考えるのであれば、「現在の借入金利が低いから、レバレッジを効かせれば有利」と考えるだけでは不十分です。
仮に10年後、借入金利が3%程度まで上昇し、その時点で不動産投資のROA(総資産利益率)が3%以下だったとします。
この場合、借入金利がROAを上回ることになり、借入によって自己資本利益率を高めるはずだったレバレッジ効果は失われ、むしろ自己資本利益率を押し下げる方向に作用します。
さらに問題となるのが、長期保有を前提としていた不動産投資の「出口」です。たとえば、10年目の時点で市場環境が悪化していたり、10年目の直前に大規模修繕を実施したばかりだったりすれば、「金利負担が重くなったから売却する」という単純な対応ができない可能性があります。売却を急げば、修繕直後の投資回収や売却価格との関係から、かえって投資収益を悪化させることも考えられます。
もちろん、これはあくまで一つのストレスシナリオです。
しかし、現在の金利水準だけを見て、将来も低金利が続くことを前提にレバレッジ効果を評価することには注意が必要です。
不動産投資の「レバレッジ効果」は、借入を使えば自動的に利益率が高まる魔法ではありません。将来の借入金利がどこまで上昇しても投資が成立するのか。ROAが借入金利を上回り続けるのか。そして、金利上昇や市場環境の変化が起きたときに、最終的な売却まで含めて投資収益を確保できるのか。
こうした点まで検証したうえで、初めてレバレッジを利用する意味が出てきます。低金利時代に有効だったレバレッジ効果を、将来の金利上昇リスクを考えずに「伝家の宝刀」や「万能薬」のように語ることには、注意が必要ではないでしょうか。
「インフレだから不動産は買い時」という営業には注意
不動産業界の方から、「インフレは今後も進むはずですよ」「今のうちに買っておけば、将来、転売するときに高く売れます」「建築資材や人件費も上がっているので、今こそ安く買える買い時です」などといった営業を受けることがあるかもしれません。
しかし、ここでも冷静に判断する必要があります。確かに、インフレによって建設資材や人件費などが高騰すれば、建設コストが上昇することになります。その意味では、新築不動産の価格を押し上げる要因になる可能性があります。
ただし、「インフレが進む=自分が購入した不動産が将来必ず高く売れる」ということではありません。将来の売却時期における市場の需給バランス、金利、人口動態、賃貸需要など、複数の要因によって最終的なリターンは変わります。不動産投資である以上、将来の売却価格を確実に予測することはできません。だからこそ、セールストークだけを鵜呑みにせず、「その前提が崩れた場合でも投資として成立するのか」を考えておく必要があります。
あなたの投資リスクは「あなた固有のリスク」です
さらに重要なのは、投資リスクは物件そのものだけで決まるわけではないということです。あなたが投資で抱えるリスクは、単純な不動産市場のファンダメンタルだけではありません。
あなたの家庭環境、事業環境、手元資金、既存借入、今後の設備投資、さらには銀行とのお付き合いなど、さまざまな事情によって変わります。つまり、あなたの投資リスクは、あなた固有のリスクなのです。
同じ1億円の不動産であっても、十分な自己資金を持ち、本業のキャッシュフローも安定している経営者と、事業資金にも余裕がなく、既存借入も多い経営者では、その投資が意味するリスクはまったく異なります。
だからこそ、「この物件は儲かるのか?」だけではなく、「自分はこのリスクを負っても大丈夫なのか?」まで考えなければなりません。あなたの事情を知らない他人から「良い投資ですよ」と言われたからといって、それだけで投資決定してしまうのはたいへん危険です。
投資判断で最も重要なのは「失敗した場合」を考えること
私はこれまで、投資実行だけでなく、その前段階となる投資審査にも携わってきました。その経験から強く感じるのは、投資を実行する前に、「この投資は本当に成立するのか」だけではなく、「もし想定どおりにいかなかった場合、どこまでなら耐えられるのか」を考えておくことの重要性です。
事業経営も同じです。皆さんが経営されている事業が、常に計画通りに進むわけではありません。売上が計画を下回ることもあります。想定外の設備投資が必要になることもあります。人件費や仕入価格が上昇することもあります。
だからこそ、投資についても「うまくいった場合」だけを計算してはいけません。家賃が下落したらどうなるのか。空室が増えたらどうなるのか。金利がさらに上昇したらどうなるのか。想定した価格で売却できなかったらどうなるのか。こうしたケースまで考えて、それでも事業や生活に大きな影響を与えない投資なのかを判断する必要があります。
長期金利3%超は「通過点」でしかない?
今後、日銀の金融政策や物価動向などによって、長期金利がさらに上昇する可能性もあります。仮に長期金利が今後さらに上昇すれば、投資判断における「比較対象となる利回り」も変わっていきます。
金融専門家でも意見は分かれます。ですが、あなたは学者でなく投資家であり、あるいは経営者なのです。
不確実なファクターに対しては常にワーストシナリオを想定して事を進める。それが投資家にとっての最善の基本姿勢であると考えます。
そう考えると、今回の3%という数字を、「3%になったから危険」と考えるのではなく、「これまでとは投資判断の前提が変わった」と捉えるべきでしょう。
ゼロ金利時代には、ほとんど利回りの得られない資産と比較して、不動産の利回りが魅力的に見えました。しかし、低リスクで得られる利回りそのものが上昇すれば、当然、リスクのある投資に求められるリターンも変わってきます。
これまで低金利を前提として行われてきた不動産投資についても、今一度、現在の金利環境を前提に投資判断を見直す必要があります。
まとめ|金利上昇時代の不動産投資は「利回り」だけでは判断できない
今回の10年物国債利回り3%超というニュースは、不動産投資を考える経営者にとっても、決して他人事ではありません。10年物国債利回りは、円建ての投資判断において、実務上のリスクフリーレートとして一つの重要な比較対象になります。
だからこそ、「この不動産投資は、10年物国債を上回る、さらにはリスクに見合っただけのリターンを得られるのか?」という視点を持つことがとても重要になります。
言い換えれば単純に「3%を超えればよい」という話ではないということです。不動産投資には、国債にはないさまざまなリスクがあります。あなたが「そのリスクを負うことの代償に見合うだけの十分なリターンが得られるのか」をしっかり見極めなければなりません。
そして、あなたが投資で抱えるリスクは、単純な不動産市場のファンダメンタルだけで決まるものではありません。あなたのご家庭、事業環境、手元資金、既存借入、今後の事業投資、銀行とのお付き合いなど、あなた固有の事情によって決まるものです。
我々は数字の専門家でしかありません。しかし、だからこそ、あなたの投資判断の基礎となる数字と考え方をご提供することはできます。
投資をするかどうかを決めるのは、あくまで経営者ご本人です。
その判断を、業者や金融機関などの「おすすめ」だけに委ねるのではなく、ご自身の数字に基づいて判断していただきたいと思います。
今後の事業運営や投資判断にお悩みの方、また不動産投資を含めた今後の経営全般についてご相談されたい方は、ぜひご連絡ください。
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